SDGs 8「働きがいと経済成長」を達成するために “働きがいとキャリア”について考えよう (@掛川工業高校 2021年2月16日)

SDGs 8「働きがいと経済成長」を達成するために “働きがいとキャリア”について考えよう

この記事は、2021年2月16日、静岡県立掛川工業高校で実施した特別授業の記録です。

今回はキャリア教育の専門家である私が、「SDGs.8」と「キャリア」をかけて50分の特別授業を行いました!

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高校キャリア教育講座 掛川工業高校 特別授業

授業内容

今回の特別授業では、大きく2部構成でお話しました。

  1. 世界と日本の労働問題
  2. 個人の働きがいとキャリア

世界と日本の労働問題

まずみなさんにお伝えしたことは、

世界や日本には、たくさんの労働問題があるってこと!

まずは知るコト、

そして、関心を持つコト。

これが大事。

例えば、世界には「低賃金問題」や「児童労働問題」があります。

私達が100円のチョコレートを買ったとしても、

カカオ農園で働く生産者には、2円くらいしかお金が落ちないといいます。

これでは、働いても働いても貧乏。

労働に対して、正当な対価が払われていないんです。

また、児童労働も大きな問題。

世界には、学校で勉強をすることもできず、

物心がついた時から働いている子どもたちがいます。

子供たちの成長や健康・安全が脅かされてしまい、貧困の連鎖が止まりません。

幸い、こうした児童労働は世界中でどんどん数が減っています。

このまま数が減って、もっと子供たちにとって豊かな世界になるといいですね。

日本に目を向けても、たくさんの労働問題があります。

日本の労働問題 SDGs
  • ムダが多く、労働生産性が低い
  • みんな一緒の横並びで、挑戦しにくい
  • 年功序列で、若者の力が発揮されない
  • 貧困が多い
  • 男女の賃金格差が大きい
  • 正規雇用者と非正規雇用者の格差が大きい
  • 男性(おじさん)中心の社会で、女性が働きにくい
  • 子育てがしにくく、女性のキャリアが築きにくい

などなど。挙げればキリがありません。

例として、下の図をみてください。

これは、「世帯収入別の子どもの有無」を示した図です。

SDGs 1 5 世帯収入別の子どもの有無

このグラフから明らかなように、子どもがいるかどうかは、収入に依存するということです。

日本は「子どもを育てるのにお金がかかる国」です。

国全体で子どもを育てようという仕組みがなく、子どもを育てるには保護者が大金を用意しないといけません。

こうなると、収入の低い世帯では子どもを持つのが難しくなります。

貧困格差が、そのまま子育て格差につながっているのです。

さらに、子育ては女性労働と密接に関係しています。

現実問題として、女性が妊娠・出産をすれば、一時的に仕事をストップせざるを得ません。

仕事への復帰やキャリアアップが難しくなり、結果として、収入が低くなってしまうのです。

ざっくり計算しても、女性が子供を産んで仕事を離れると、子どもを産まない場合に比べて、

生涯賃金が1億5000万円下がるのが現実なんです!

これでは、子どもを産むのをためらうのも当然ですよね。

こうした若者や女性に優しくない社会ですから、少子化が進むのも当然と言えます。

このように、世界や日本には多くの労働問題があります。

しかし、ここで皆さんに肝に銘じて欲しいのが、

誰かがなんとかしてくれるとは思わないこと

国が悪い!

学校や会社が悪い!

そんな風に、誰かのせいにしていても、世の中は何も良くなりません。

だから、まず自分自身が変わることです。

他人の人生を生きるんじゃなくて、まず自分自身が、自分の人生を生きることが大事なんです。

ではここからは、個人の働きがいとキャリアについて考えていきましょう。

個人の働きがいとキャリア

「働きがい」とは何でしょう?

適当に思いつくものを挙げてみると…

  • 人の役に立つ
  • 社会に貢献する
  • 公正・平等である
  • お金がもらえる
  • 安定している
  • 好きなことができる
  • 休みがとれる
  • 成長できる
  • 自分の力が発揮できる
  • 出世・独立・起業する

なんて感じですかね?

ここで大切なのは、価値観に正解はないってこと。

「社会に貢献したい!」って人もいれば、

「体が弱いから、安定して働きたい…」って人もいる。

価値観ってすごく個人的なものですから、他人に自分の考えを押し付けるのは違うんですね。

で、ここですごく危険な落とし穴があるんです!

 「働きがいがあるって素敵だよね」

⇒「好きなことを仕事にできたらいいよね」

⇒「じゃあ、あなたのやりたいことは何?」「夢は何?」

・・・・

「働きがい」という言葉が、「夢」「やりたいこと」に変換されている人、いませんか?

僕の体感では、90%の大人がこの落とし穴に当てはまってる気がします。

私が言いたいのは、「夢=仕事」じゃない!ってこと!

夢は「自分の幸せ」

仕事は「他人の幸せ」

自分と他人の幸せは違うんだから、夢と仕事はイコールじゃないんです。

だけど、学校では「将来の夢」を書かされるし、

大人からは「やりたいことは何」と聞かれます。

夢ややりたいことがある人はいいけれど、

夢なんてない

やりたいことなんて分からない

そんな苦しみを抱えている人だっているはずです。

ちなみに、高校生の保護者が子どもにするアドバイスで一番多いのは、

「やりたいことをやりなさい」だそうです。

(出展:第8回「高校生と保護者の進路に関する意識調査」2017年報告書)

一見すると、すごく子ども想いな保護者に思いますが、

やりたいことがない僕はダメなの?

なんて追い込まれる人も絶対いるはず。

でも、そんな子どもたちに伝えたいことがあります。

「夢」や「やりたいこと」は、なくても大丈夫

やっぱり、10代20代でやりたいことを見つけるのは難しい!

これは、多くの理論や研究によって結論付けられています。

バンデューラのキャリア発達理論とか、

シャインのキャリア・アンカーとか、

セリグマンのポジティブ心理学とか、

とにかくあらゆる研究で、10代20代でやりたいことは見つからない。それが普通。

これが証明されています。

さらにここからが大切。

どうやら、人の価値観は早くても30歳前後で決まるらしいのです。

シャインは、これを船の錨(いかり)に例えて、キャリア・アンカーと呼びました。

ここ、大事だから覚えておいてくださいね。

「若者にやりたいことを聞くのはおかしい」ってことは、直観的にも正しいように思います。

じゃあ、なんで大人たちは子どもに「やりたいこと」を聞いちゃうんでしょう?

これは、一言でいえば「そういう時代だったから」

みなさんのご両親が就職したのは1990年くらい。

この時代と今は、何が違うんでしょうか?

ざっと思いつくのがこんな感じです。

昔の働き方・考え方

  • 景気が良かった
  • 大企業なら安心
  • 終身雇用
  • モーレツに働く
  • 会社に尽くす
  • 男は仕事、女は家

今の働き方・考え方

  • 景気が良くない
  • 大企業でも不安定
  • 転職が当たり前
  • ワークライフバランス
  • 副業・独立・フリーランス
  • 男性も育児、女性も働く

一番のポイントは、やっぱり終身雇用

昔は、新卒で入った会社に定年まで働くのが当たり前。

職業選択は1回きり。

当時の人からすれば、

「失敗できない!」

「いい会社に入りたい!」

と思うのは当たり前。

だから当時は、自分に合った仕事を選ぶ「適職探し」がめちゃくちゃ大事だったんです。

これを、人と職のマッチングといいます。

専門的には、パーソンズの特性因子理論と呼び、1909年ごろに提唱されたものです。

日本で一番有名なキャリアの考え方がこのマッチングで、

だから、大人たちは「将来の夢」や「やりたいこと」を聞いちゃうんです。

でも今の時代は、キャリアチェンジが当たり前!

転職・育休・副業・フリーランス・独立・学び直し…

いろいろな働き方があります。

職業選択は何回もあるので、

自分に合った仕事を選ぶのは、もうそんなに大事じゃないんです

むしろ、1つの会社・1つの仕事にこだわる方が、変化に対応できなくて危険です。

しかも今は人生100年時代。

定年を75歳とすると、職業人生はなんと55年!

企業の寿命は20年、

平均勤続年数は10年くらいを目安に考えると良いので、

1つの会社で一生働くとか、もはや無理ゲーですよね?

さらに、AI・グローバル化・人口減少などの様々な理由で、

仕事の在り方そのものが変わる時代。

だからこれからの時代は、適職探しにこだわらなくていいんです。

いままでを「山登り型のキャリア」とすれば、

これからの時代は「川下り型のキャリア

山登り型のキャリアから、川下り型のキャリアへ

計画よりも行動。

目標に向かうだけじゃなく、柔軟に変化する。

適職探しにこだわらず、あとで変えたっていい。

こういうキャリアの考えが必要です。

※この考え方を、専門用語でキャリア・ドリフトと呼びます。

では最後に、今の時代に合ったキャリア選択をするためのワークをやってみましょう。

これを「マルチキャリア・シンキング」と呼びます。

マルチキャリア・シンキング

いままでのように、「医学を専攻」→「医者になる」という1本道のキャリアではなく、

あんな道も面白い。

こんな道も面白い。

セカンドキャリアは、こういう道もいいかな。

こんなことを考えながら、複数の道(マルチキャリア)を考えます。

今回は医学を例に挙げましたが、どんな進路を歩む人にも当てはまる方法です。

※参考文献:「未来の働き方を考えよう」ちきりん

進路・キャリア選択のスタンス 職人タイプとわくわくタイプ

1つの道に進むタイプを「職人タイプ」とするなら、

複数の道を考えるタイプは「わくわくタイプ」と呼ぶと良いでしょうか?

大人たちは職人タイプの思考で進路を考えてきましたが、

わくわくタイプの方が変化に強く、これからの時代にぴったりです。

1本道の人生じゃなくて、あらかじめたくさんの道を考えておきましょう。

高校生の声&質問

高校キャリア教育講座 掛川工業高校 特別授業 アンケート結果

受講生の満足度は100%・・・ありがとうございました(;_;)

以下のようなコメントが多数みられました。

  • 夢=仕事じゃないことが分かった
  • 夢≠仕事という考えは転職しやすい今の時代の新しい考え方だと思いいました
  • 価値観は30歳くらいで定まるから、いま決まってなくてよいと知れた
  • 今までは自分のやりたい事だけしか考えてなかったので今後は幅広い視野を持ちいろんな事に挑戦していきたいと思います。

「夢=仕事じゃない」とか、「価値観はまだ決まらない」という部分が、特に印象深かったようです。

質問に答えます!

もしも価値観がはっきりして、夢・やりたいことがあるならば、それは、いいことなのでしょうか?

これは良いことだと思います。夢ややりたいことは「必須ではない」けど、「あってもよい」ものだからです。進路を選ぶ際には、自分の興味・関心がある程度はっきりしている方が、迷わずに進みやすいと言えるでしょう。ただし、10代のころに思い描くやりたいことのイメージは、実際の社会・就職とは大きく異なる場合があります。これを「リアリティ・ギャップ」と言います。自分の想いと、社会の現実を、しっかりとすり合わせていく準備はとても大切です。ですから、目標がすでに決まっている人も、「社会を見る」ことは続けてください。

夢がまだ決まっていない時、何を目標にすればいいのか?

これは良い質問ですね。いくつか方法があります。①目の前のことを頑張ること、②社会に目を向けること、③いろんな経験を積むこと、④自分の気持ちをしっかりと言葉にしていくこと、などが挙げられます。もし「進学」の場面で迷うのなら、⑤オープンキャンパスや学校説明会に行くこと。「就職」の場面で迷うのなら、⑥会社を見たり、⑦求人票を読み込み、職務内容や労働条件に共感できるかどうかを判断することです。どうしようもないときは、⑧先輩方の進路決定先を調べるという裏技があります(代理学習・モデリングという手法です)。大切なのは、考えて立ち止まるのではなく、「行動すること」です!

特別授業のまとめ

今回の授業は以上です。

特別授業のまとめ

  1. 世界や日本の労働問題を、まずは知ることが大事
  2. まずあなた自身が変わろう
  3. 働きがい・価値観に正解はない
  4. 「夢=仕事」じゃない
  5. 「夢」や「やりたいこと」は、なくても大丈夫
  6. 価値観が決まるのは早くて30歳前後 【キャリア・アンカー】
  7. 昔は、「適職探し」が超大事だった 【人と職のマッチング】
  8. 今は、「適職探し」にこだわらなくていい
  9. 山登り型キャリアから、川下り型キャリアへ
  10. 1本道じゃなく、たくさんの道を考えておこう

高校生でキャリアについてもっと考えたい!と言う人は、

今度出版する本をぜひ読んでみてください ⇒ 2021年出版予定の著書はこちら

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では、ありがとうございました。